高齢者の食事で気を付けること|食べない・飲み込めないへの対処法

「最近は何を食べても味がわからない」「食事中によくむせてしまう」「食べ残しが増えてきた」利用者の方々のこうした声に直面していませんか?
高齢者施設などでは、利用者一人ひとりの体調や嚥下(えんげ)機能に合わせて安全でおいしい食事を提供することが、職員にとって日々の大きな課題となっています。
本記事では、加齢による機能低下を理解し、安全で美味しい食事を提供するためのポイントを詳しく解説します。
高齢者の食事に関する機能低下
年齢を重ねることで、食事にかかわる身体機能は徐々に低下していきます。とくに重要なのは「噛む力」「飲み込む力」「味覚」の3つの機能で、これらが食事の安全性と満足度を左右します。
噛む力の低下
加齢により歯の欠損や歯周病が進行し、噛む力(咀嚼機能)は著しく低下します。
2024年に行われた厚生労働省の調査によると、75歳以上85歳未満で20本以上の歯を有する人の割合は61.5%程度と推測されています。なお、歯の本数が20本を下回ると硬い食材の摂取が困難になり、栄養バランスの偏りが生じやすくなります。
また、入れ歯を使っていても、フィット感が合わなくなると十分に噛めないケースが多く見られるため、快適な咀嚼を保つには定期的な歯科検診が欠かせません。
出典:厚生労働省「令和4年歯科疾患実態調査結果の概要」(https://www.mhlw.go.jp/content/10804000/001112405.pdf)
飲み込む力の低下
年齢を重ねると、舌や喉の筋力が衰え、食べ物をスムーズに飲み込む力(嚥下機能)が弱まっていきます。その結果、誤って気管に入ってしまう「誤嚥」が起こりやすくなり、誤嚥性肺炎といった重大な健康リスクにつながります。
とくに水分の多い飲み物は流れが速いため、嚥下反射が間に合わず、むせ込みの原因になりやすい傾向があります。さらに加齢によって唾液の分泌が減ることで、口の中が乾きやすくなり、パンや肉などパサついた食材はより飲み込みにくくなります。
味覚の低下
味覚が衰えると食欲が落ちやすくなり、食事量の減少や栄養不足につながるおそれがあります。舌の表面にある味蕾の数は加齢とともに減少し、赤ちゃんのころは10,000個、成人では約7,000個、高齢者では約3,000個まで減少します。
とくに塩味と甘味に対する感度が低下しやすく、濃い味付けを好む傾向がありますが、塩分の過剰摂取は高血圧のリスクを高めるため注意が必要です。また、薬の副作用により味覚が変化することもあります。
高齢者に必要な食事量はどのくらい?
高齢者の適切な食事量を把握することは、低栄養の予防のために重要です。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、年齢と身体活動レベルに応じた推定エネルギー必要量や、タンパク質の食事摂取基準が示されています。
【1日の推定エネルギー必要量】
男性 | 女性 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
身体活動レベル | レベルⅠ(低い) | レベルⅡ(普通) | レベルⅢ(高い) | レベルⅠ(低い) | レベルⅡ(普通) | レベルⅢ(高い) |
65~74歳 | 2,100kcal | 2,350kcal | 2,650kcal | 1,650kcal | 1,850kcal | 2,050kcal |
75歳以上 | 1,850kcal | 2,250kcal | – | 1,450kcal | 1,750kcal | – |
【1日のタンパク質の食事摂取基準】
男性 | 女性 | |||
---|---|---|---|---|
推定平均必要量 | 推奨値 | 推定平均必要量 | 推奨値 | |
65~74歳 | 50g | 60g | 40g | 50g |
75歳以上 | 50g | 60g | 40g | 50g |
エネルギー必要量は個人差が大きいため、体重の変化や活動量、健康状態を継続的に観察しながら適切な食事量を調整することが大切です。一度に多量を摂取できない場合は、少量頻回の食事や補食を活用して必要な栄養素を確保します。
出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」(https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316585.pdf)
高齢者に不足しがちな栄養素
高齢者は食事量の減少により、タンパク質、カルシウム、ビタミンD、食物繊維、鉄、亜鉛などが不足しがちです。
とくにタンパク質は、筋肉、骨、血液などの体構成成分であり、免疫機能の維持にも重要な役割を果たします。
また、カルシウムとビタミンDは骨の健康維持に不可欠です。ビタミンDは日光浴による皮膚での合成も重要で、屋外活動の減少により不足しやすくなります。食物繊維は、便秘予防や生活習慣病のリスク低減に重要です。
栄養が不足することで起こりうるリスク
栄養不足は体重減少だけでなく、筋肉量減少による転倒・骨折リスクの増加、免疫機能低下による感染症リスクの増加、骨粗鬆症の進行などさまざまな健康リスクを引き起こします。
タンパク質不足により筋肉量が減少すると、さらなる活動量低下を招き悪循環に陥ることがあります。また、免疫力が落ちることで感染症にかかりやすくなり、傷や病気の回復も遅れます。
とくに、高齢者施設ではインフルエンザや肺炎などが集団発生するリスクがあるため、栄養状態を整えることは感染症対策の面からも欠かせません。
さらにカルシウムやビタミンDの不足は骨粗鬆症を進め、軽い転倒でも骨折につながる危険があります。とくに大腿骨頸部骨折は寝たきりの原因になりやすく、生活の質を大きく損なうため、予防的な栄養管理が重要です。
フレイルとは?
フレイルは「虚弱」を意味し、加齢により心身の活力が低下した状態を指します。健康な状態と要介護状態の中間段階で、適切な対応により機能回復が期待できる重要な時期です。
【フレイルの評価基準】
- 1.体重減少:6か月で、2kg以上の(意図しない)体重減少
- 2.筋力低下:握力:男性<28kg、女性<18kg
- 3.疲労感:(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする
- 4.歩行速度:通常歩行速度<1.0m/秒
- 5.身体活動量:週に1回も「軽い運動・体操」「定期的な運動・スポーツ」を行っていない
上記の基準に3つ以上当てはまる場合は「フレイル」、1〜2つの場合は「プレフレイル(フレイル予備軍)」と判定されます。
栄養不足はフレイルを招く大きな要因のひとつです。とくにタンパク質が不足すると、筋肉量や筋力が低下し、フレイルの中心的な症状につながります。
早い段階で栄養を補うことで、フレイルの進行を遅らせたり改善したりすることが可能です。
高齢者が食べやすい食品・食べにくい食品
高齢者の食事では、食品選びが「安全」と「栄養摂取」の両面で重要なポイントです。嚥下や咀嚼の機能に合わせて食材を選ぶことで、誤嚥のリスクを減らしながら必要な栄養をしっかり取り入れることができます。
食べやすい食品の基準は、口の中でまとまりやすいこと、喉を通りやすいこと、そして適度な粘度があることです。一方で、食べにくい食品は硬いもの、繊維が多いもの、口の中でパサつくもの、弾力が強すぎるものなどが挙げられます。
ただし、嚥下機能や咀嚼力は人によって大きく異なります。そのため、利用者一人ひとりの状態を定期的に確認し、変化に応じて食事を調整していくことが欠かせません。
高齢者が食べやすい食品
食べやすい食品として、以下のものがあります。
- ・おかゆ状のもの(おかゆ、パン粥)
- ・乳化されたもの(ヨーグルト、アイスクリーム)
- ・ポタージュ状のもの(コーンポタージュ、シチュー)
- ・プリン状のもの(茶碗蒸し、プリン、ムース)
- ・ゼリー状のもの(水ようかん、ゼリー)
- ・ミンチ状のもの(ハンバーグ、肉団子、つくね)
これらの食品は喉ごしがよく、水分補給を兼ねられる点が大きなメリットです。さらに、肉類であればタンパク質を効率よく摂取できる利点もあります。
果物では、水分を多く含み柔らかいバナナ、もも、メロンなどが適しています。また、缶詰の果物は繊維がやわらかく加工されているため、高齢者にとって食べやすい食品です。
高齢者が食べにくい食品
食べにくい食品は、以下のものが挙げられます。
- ・硬い野菜(きゅうり、生のにんじん、キャベツの芯):咀嚼が困難で口の中を傷つける可能性がある
- ・繊維が残るもの(たけのこ、ごぼう、ふき、セロリ):噛み切りにくく口の中に残りやすい
- ・スポンジ状のもの(がんも、はんぺん、食パン):口の中の水分を吸収し飲み込みにくくなる
- ・弾力の強いもの(こんにゃく、麺類、餅):咀嚼に時間がかかり誤嚥のリスクが高まる
- ・酸味の強いもの(酢の物、柑橘類):喉の反射を引き起こしむせやすくなる
- ・さらさらしたもの(水、お茶、味噌汁):喉を通る速度が速く誤嚥しやすい
- ・口の中に張り付くもの(のり、わかめ、餅):窒息のリスクがある
食べにくい食品を調理する際のポイント
食べにくい食品でも、調理方法を工夫すれば高齢者にとって安全で美味しい料理に変えることができます。利用者の機能低下に合わせた調理技術を身につけることで、食事の選択肢が広がり、栄養バランスの改善にもつながります。
調理の工夫で大切なのは、咀嚼機能・嚥下機能・味覚機能のそれぞれに配慮することです。単に柔らかくするだけでなく、栄養価を損なわないようにしつつ、見た目や香りを楽しめる調理を意識することが大切です。
噛みやすくするポイント
肉類は、筋繊維を断ち切るように包丁で叩いたり細かく刻んだりすると噛みやすくなります。ひき肉を使ってハンバーグや肉団子にすると、さらに咀嚼の負担を減らすことができます。
野菜は、繊維を断ち切る方向に切り、隠し包丁を入れて火の通りをよくしましょう。じっくり加熱することで、歯ぐきでもつぶせる程度のやわらかさに仕上げられます。
また、蒸し器や圧力鍋を使えば、短時間で中まで柔らかく調理することが可能です。
飲み込みやすくするポイント
誤嚥を防ぐための基本的な工夫として、片栗粉やコーンスターチでとろみをつける方法があります。とろみの濃さは、利用者一人ひとりの嚥下機能に合わせて調整することが大切です。
また、ゼラチンやゲル化剤でゼリー状に加工する方法も有効です。食材を裏ごしやミキサーで滑らかにし、あんかけでまとめる調理法を組み合わせることで、口の中でバラバラにならず飲み込みやすくなります。
味覚低下への配慮も忘れずに
高齢者は塩味や甘味を感じにくくなる傾向があるため、塩分を抑えつつ味に変化をつける工夫が必要です。
昆布・かつお節・椎茸などのだしの旨味を活かすほか、しょうが・にんにく・大葉といった香味野菜や、カレー粉・黒胡椒などのスパイスを適度に加えると、味覚を刺激できます。
高齢者の食事でよくある悩みと対処法
高齢者の食事には、噛みにくい・飲み込みにくい・食欲がわかないなど、さまざまな悩みがつきものです。適切な工夫や支援を行うことで、安全で楽しい食事時間を実現できます。
食事を食べてくれない
食事拒否の原因は、味覚の変化、口腔内の問題(入れ歯の不具合、歯の痛み)、うつ状態や認知症の進行、環境変化によるストレス、孤独感など、多岐にわたります。医療的問題の確認、口腔ケアの充実、好みの聞き取り、食事環境の見直しを行いましょう。
料理を飲み込めない
嚥下障害は誤嚥性肺炎に直結する重大なリスクです。むせやすい食品の特徴を理解した上で、液体にはとろみをつけ、固形物は適度に刻んで調整しましょう。
また、90度座位で顎を軽く引いた前傾姿勢を保ち、一口量を少なめにしてゆっくり食べるよう工夫すると、安全に食事を進められます。
食事中・食後に吐いてしまう
嘔吐の原因として食後すぐに横になることによる胃酸の逆流があります。食事後は最低30分、できれば1〜2時間は座位を保ちます。食べ過ぎや早食いも原因となるため、一回の食事量を減らし、ゆっくりと食べることを促します。
頻繁に嘔吐がみられる場合は、薬の副作用や消化器疾患の可能性があるため、必ず医師に相談してください。
高齢者の食事介助の方法と注意点
食事介助は、高齢者の安全と尊厳を守りながら栄養摂取をサポートする重要な技術です。利用者の状態を常に観察し、ペースに合わせた介助を心がけ、コミュニケーションの機会として温かい雰囲気で食事を楽しんでもらいましょう。
目がしっかり覚めているかチェックする
食事前には必ず意識レベルを確認し、利用者がしっかり目を開け、反応できる状態であるかをチェックします。
覚醒が不十分な場合は、軽く声をかけたり体に触れるなどの軽い刺激で覚醒を促すことが大切です。それでも難しい場合は無理に食事を行わず、医師に相談して食事の延期を検討します。
正しい姿勢で食べてもらう
食事時の姿勢は誤嚥防止の最も重要な要素です。基本姿勢は90度座位で、顎をやや引いた前傾姿勢、背中はまっすぐ、足は床にしっかりと着けます。
車椅子を使用している場合はフットレストを調整し、ベッド上で介助する場合はギャッチアップ機能で上体を起こし、首の後ろにタオルを入れて頭部をやや前屈に調整すると安全です。
水分の多い料理から食べてもらう
口腔内の乾燥は嚥下を困難にするため、食事開始時には口腔内を潤すことが重要です。水やお茶などのサラサラした液体は誤嚥リスクが高いため避け、適切にとろみを付けたスープやゼリー状の水分から開始し、徐々に固形物に移行します。
温度は人肌程度(38~40度)が最も嚥下しやすく、熱すぎると反射的にむせる原因となります。
食事を急かさない
高齢者の咀嚼や嚥下には時間がかかるため、十分な時間を確保し、焦らせないことが重要です。急かすことで不安や焦りが生じ、誤嚥リスクが高まります。
一口ごとに飲み込みを確認し、利用者のペースに合わせて食事時間は個人差があることを理解します。疲労が見られる場合は休憩を挟んだり食事を分割したりします。
コミュニケーションを取りながら食べてもらう
食事中の会話は、食欲を高める効果だけでなく、誤嚥の予防にもつながります。料理の説明をしたり、思い出話を交えたりすることで、楽しい雰囲気を作り出しましょう。
ただし、食べ物を口に入れている間に会話をするとむせやすくなるため、しっかり嚥下を確認してから声をかけることが大切です。
また、会話を通じて利用者の表情や反応を観察し、疲労感や不快感などのサインを見逃さないように注意しましょう。
まとめ
高齢者の食事支援は、栄養補給を超えた総合的なケアです。加齢による機能低下を理解し、一人ひとりの状態に応じた適切な食事形態と介助方法を提供することで、安全で楽しい食事時間を実現できます。
適切な栄養摂取は、フレイル予防や生活の質の向上に直結します。食べやすい食品の選択、調理方法の工夫、そして温かいコミュニケーションを通じて、高齢者の食への意欲を支えることが重要です。
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