嚥下食とは?向かない食品や提供する際のポイントを解説
高齢者施設では「常食」をはじめ、さまざまな形態の食事を取り扱っています。「嚥下食と介護食は何が違うのか」「施設でどのレベルを提供すればよいか判断できない」そんな疑問を感じたことはありませんか。
嚥下食は飲み込みの安全性に特化した食事です。「食べにくい方向けの食事」とひとまとめにされがちですが、日本摂食嚥下リハビリテーション学会の基準にもとづき、コード0からコード4まで細かく分類されています。
本記事では、嚥下食の定義と分類、向いている食品・向かない食品、提供時のポイントを解説します。スタッフへの指導や入居検討者のご家族への説明にも役立つ内容のため、ぜひ最後までお読みください。
嚥下食(嚥下調整食)とは
嚥下食とは「飲み込む力」が低下した方のために、やわらかさ・形態・とろみを調整した食事の総称です。日本摂食嚥下リハビリテーション学会では正式に「嚥下調整食」と呼んでいます。
よく混同される「介護食」との違いも押さえておきましょう。介護食は噛む力が衰えた高齢者全般を対象とした広い概念で、きざみ食やソフト食なども含まれます。
一方、嚥下食はそのなかでも「飲み込みの安全性」に特化しているのが特徴です。形態だけでなく、口の中でまとまりやすいか・ばらけないか・喉に張り付かないかといった物性まで考慮して調整されます。
この区別を施設全体で正確に把握することは、入居者一人ひとりに適切な食事形態を選ぶ判断軸になります。誤った形態の食事を提供し続けると、誤嚥性肺炎のリスクや食事への苦手意識につながり、安全面だけでなくQOL(生活の質)低下の原因になりかねません。
「飲み込みに配慮した食事」としての正確な定義を、スタッフ全員で共有してみてください。
嚥下食(嚥下調整食)の分類
嚥下食には、病院・施設・在宅で共通して使用できるよう、学会が定めた分類基準があります。それが「日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021」(学会分類2021)です。
この分類の特徴は「ムース食」「ペースト食」といった名称ではなく、コード番号で管理している点です。食形態の名称は施設によって呼び方が異なるため、コード番号が「どのレベルの食事か」を伝える共通言語となります。転院・転居時の引き継ぎや外部の医療・福祉との連携においても、コード番号の把握は重要です。
コードは0〜4の5段階で構成され、コード0はj(ゼリー)とt(とろみ)の2種類、コード2は2-1と2-2に細分化されています。以下でそれぞれ解説します。
コード0(嚥下訓練食品)
コード0は、嚥下機能が重度に低下している場合に使用する「嚥下訓練食品」です。コード1以上の嚥下調整食とは異なり、栄養摂取を主目的とした「食事」ではなく、あくまで嚥下の訓練を始める場面で用いられます。
万が一誤嚥してしまった場合の重症化リスクを下げるため、たんぱく質をほとんど含まないものが推奨されています。
コード0j(嚥下訓練食品j)
「j」はゼリー(jelly)を意味します。均質で付着性が低く、凝集性が高い、なめらかなスライス状のゼリーです。お茶ゼリー、果汁ゼリー、市販の嚥下訓練用ゼリーなどが該当します。
スプーンでスライス状にすくいやすく、ばらばらにならず、噛まずに丸のみできるものが対象です。誤嚥した際の感染リスクへの配慮から、たんぱく質をほぼ含まないものが望ましいとされています。
コード0t(嚥下訓練食品0t)
「t」はとろみ(thickness)を意味します。均質で付着性が低く、適度な粘度を持つとろみ状の食品です。スプーンですくってそのまま飲み込めるもので、コード0jのゼリーでは誤嚥してしまう方の選択肢として用いられます。お茶や果汁に中間あるいは濃いとろみをつけたものが該当します。
なお、コード0の正式名称は「嚥下訓練食品0j」「嚥下訓練食品0t」です。一部に誤記が見受けられますが、コード0tの正式名称は「嚥下訓練食品0t」となります。執筆・指導の際は一次情報である学会分類2021の定義を参照してください。
コード1j(嚥下調整食1j)
コード1以上は「嚥下調整食」と呼ばれ、たんぱく質を含んでいてもよい、食事として機能するものになります。コード1jは、均質でべたつかず、まとまりがよく、やわらかなゼリー・プリン状の食品です。
卵豆腐、重湯ゼリー、ミキサー粥のゼリー、市販の嚥下調整食ゼリーなどが該当します。咀嚼(そしゃく)を必要とせず、口腔内でまとまりやすい形態が求められるでしょう。
コード2(嚥下調整食2)
コード2は、ピューレ・ペースト・ミキサー食にあたる食品です。べたつかず、まとまりやすく、スプーンですくって食べることができます。噛む力は不要ですが、口の中でまとめて喉へ送り込める程度の嚥下機能が必要です。
コード2-1
なめらかで均質なペースト状の食品です。粒がなく、付着性の低いものが対象となります。
食品例:粒のないなめらかな重湯、なめらかなポタージュなど
コード2-2
やわらかい粒を含む不均質な食品です。やや不均質(粒がある)でも、やわらかく離水がなく付着性が低いものであれば該当します。
食品例:粒のある軟らかいおかゆ、やわらかく煮込んだ野菜のペーストなど
コード3(嚥下調整食3)
形はあるものの、舌と口蓋(こうがい)で押しつぶすことができる「ソフト食・やわらか食」にあたります。食塊(口の中でまとまった食べ物のかたまり)の形成や移送がしやすく、咽頭でばらばらになりにくい形状です。多量の離水(食品から水分が出ること)がないことも条件となります。
食品例:離水に配慮したやわらかいおかゆ、舌でつぶせる程度の煮込み料理など
コード4(嚥下調整食4)
嚥下機能や噛む力の低下が軽度な方向けに、素材や調理方法を工夫した食事です。硬すぎず、ばらばらになりにくく、貼り付きにくく、箸やスプーンで切れる程度のやわらかさが求められます。軟菜食・移行食と呼ばれるものがこのコードに該当しますが、誤嚥防止に配慮されたものでなければなりません。
食品例:軟飯、全粥、素材に配慮した煮込み料理、卵料理など
出典:日本摂食嚥下リハビリテーション学会「日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021」4、5P(https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/classification2021-manual.pdf?0917)
こちらの記事では、介護食の種類と選び方について解説しています。食品ごとのメリット・デメリット・注意点なども詳細に取り上げているため、ぜひあわせてご覧ください。
摂食・嚥下とは
ここで「摂食・嚥下」について整理しておきましょう。「摂食」は食べることを意味する一方「嚥下」は飲み込むことを指します。食事の一連の動作は5つの段階(5期)に分けられており、どの段階に障害があるかによって必要な食事形態が変わります。
適切な嚥下食を選ぶには「どの段階でつまずいているのか」を把握することが重要です。5期を理解しておくと、スタッフへの説明や外部の医療・福祉関係者との連携もスムーズになります。
先行期
食べ物を目で見たり、においを嗅いだりして「これは食べ物だ」と認識する段階です。同時に、唾液の分泌が促されます。
認知症の進行によってこの段階がうまく機能しなくなると、食べ物を口に運ぶ前に食欲そのものが低下したり、口への取り込みが起こらなかったりします。先行期の障害は、食形態の調整だけでは対処しきれないケースも多く、食事環境の整備(香りのある食事、彩りへの配慮)も重要です。
準備期
口の中に取り込んだ食べ物を咀嚼し、唾液と混ぜ合わせて「食塊」を作る段階です。歯や舌、あごの筋肉が連携して働きます。
この段階に問題がある場合は、咀嚼に頼らない食形態(コード2以下)が適切です。
口腔期
舌の運動によって、食塊を口の奥から咽頭へと送り込む段階です。このとき、軟口蓋が鼻腔との通り道をふさいで、食べ物が鼻へ流れないようにします。
舌の力が低下している方は、食塊を喉へ送り込む力が弱いため、まとまりやすく、送り込みやすい食形態(コード1〜3)が求められます。
咽頭期
「ごっくん」と飲み込む瞬間です。嚥下反射によって食塊が咽頭から食道へ送り込まれます。同時に、声門が閉じることで気道への侵入(誤嚥)を防ぎます。
5つの段階のなかでも、誤嚥が起きやすいのがこの咽頭期です。嚥下反射が遅れたり、声門の閉鎖が不十分だったりすると、食べ物が気道に入り込みます。とくにサラサラした液体やパサつく食品は誤嚥しやすいため、とろみをつけたり、まとまりやすい形態に調整したりすることが重要です。
食道期
食道の蠕動運動(ぜんどううんどう)によって、食塊が胃へと送り込まれる段階です。この段階は自律神経が主に制御しており、自分の意思でのコントロールはできません。
食道期の障害は比較的少ないですが、食道の筋肉が衰えると食べ物が途中でつかえるような感覚が生じることがあります。嚥下食の対象にはなりにくいですが、入居者の訴えには注意を払いましょう。
嚥下食に向いている食品と向かない食品
嚥下食は「やわらかければよい」というわけではありません。誤嚥を防ぐには、まとまりやすさ・べたつき・硬さ・水分量といった「物性」を総合的に考える必要があります。
以下では、現場でチェックリストとして活用できるよう、具体的な食品例を挙げて解説します。
嚥下食に向いている食品
嚥下食に適した食品は「密度が均一でまとまりやすく、付着性が低いもの」が基本です。口の中でまとまり、喉への送り込みがスムーズで、誤嚥した場合にも気道への負担が少ないことが求められます。
| 嚥下食に向いている食品 | 特徴・状態 |
| 豆腐 | やわらかく均質でまとまりやすい |
| プリン・ゼリー | 均一な物性で付着しにくい |
| 卵豆腐・茶碗蒸し | なめらかで凝集性が高い |
| やわらかく煮込んだじゃがいも・かぼちゃ | 舌でつぶせる程度のもの |
| 粥・重湯 | 水分がまとまっていて送り込みやすい |
| ミキサーにかけた魚・鶏肉 | 付着性が低くなめらかなもの |
ただし、形態が「やわらかい」だけでは不十分です。たとえば、こんにゃくは非常にやわらかいですが、弾力性が高く誤嚥しやすいため嚥下食には向きません。調理後の物性を意識することが大切です。
嚥下食に向かない食品
以下のような食品は、誤嚥・窒息のリスクが高く、嚥下食としては不向きです。施設でのメニュー管理や発注の際に、参考にしてください。
| 嚥下食に向かない食品 | 理由 |
| パン・クッキーなどの乾燥したもの | パサつきが強く、口の中でまとまらない |
| こんにゃく・かまぼこなどの弾力性の高いもの | 噛み切りにくく丸のみしやすい |
| 海苔・わかめなどの口に貼り付きやすいもの | 粘膜に張り付いて誤嚥を誘発する |
| ひき肉・ナッツ・コーン・豆類などのばらけやすいもの | 口の中でまとまらない |
| 酢の物や柑橘類など酸味が強いもの | 刺激で嚥下反射が乱れやすい |
| サラサラした味噌汁・お茶などの液体 | 口の中での保持が難しく、誤嚥しやすい |
「好物だから」という理由でそのまま提供することは、入居者の安全を脅かすリスクがあります。
とろみを加えたり、形態を変えたりする工夫で、安全に近い形で好きな食べ物を提供できることもあります。管理栄養士や言語聴覚士と連携しながら、個別対応を検討しましょう。
談らんでは、介護食に関する相談を受け付けております。お困りの際にはぜひお問い合わせください。
嚥下食を提供する際のポイント
嚥下食を適切に提供するには、食形態の選択だけでなく、調理の工夫や食事環境の管理も重要です。施設経営者として知っておきたい3つのポイントを解説します。
とろみ剤を使う
液体はサラサラしていると口の中で保持しにくく、誤嚥しやすくなります。水分にとろみをつけることで、飲み込みやすさを高めることが可能です。
学会分類2021では、とろみを「薄いとろみ」「中間のとろみ」「濃いとろみ」の3段階に分類しています。薄すぎると誤嚥しやすく、濃すぎると飲み込みにくくなるため、個人の嚥下機能に合わせた調整が必要です。
注意したいのが「離水(りすい)」です。とろみ剤を加えてから時間が経つと水分が分離してサラサラになることがあり、唾液と混ざることで粘度が変化するケースもあります。提供直前にとろみの状態を確認する習慣をつけましょう。
使用量が多いほど膨満感が出やすく、食事量や水分摂取量が減ることもあるため、使用量の基準を施設内で統一しておくことが大切です。
調理器具を活用する
嚥下食の調理には、ミキサーや真空調理機の活用が有効です。ミキサーは食材を均質なペースト状に仕上げられますが、加水量が多くなりがちで味や栄養が薄まる課題があります。
真空調理(クックチル)は食材を袋に密封したまま加熱するため、余分な水分を加えずに旨味と栄養を保つことが可能です。調理後の二次汚染を防ぎやすく、衛生管理の面でも優れています。
調理担当スタッフのスキルに依存しにくい仕組みを整えることも、食事品質を安定させるうえで重要な視点です。
水分量に気をつける
嚥下食は水分含有量が多くなりがちで、通常の食事より栄養価が低下しやすい特徴があります。ミキサー調理で水を加えすぎると、カロリーやたんぱく質の密度が下がり、低栄養につながるリスクがあります。
加水量を最小限に抑えるとともに、栄養価を定期的に確認しましょう。管理栄養士と連携し、各コードに応じた栄養基準を施設内でルール化しておくことが大切です。
また、とろみ剤中心の水分補給は膨満感から摂取量が落ちやすいため、脱水予防の観点からも一日を通じた水分摂取量の把握を怠らないようにしましょう。
まとめ
本記事では、嚥下食の定義から分類、向いている食品・向かない食品、提供時のポイントまでを解説しました。
嚥下食の適切な提供は、入居者の安全を守るだけでなく「おいしく食べる喜び」を支えることにもつながります。コードを正しく理解し、個々の嚥下機能に合った食事を選べる施設は、入居検討者のご家族にとっても「安心できる施設」として高く評価されるでしょう。
一方で、きざみ食やミキサー食を毎日手作りするには、調理スタッフへの負担・衛生管理のコスト・品質のばらつきといった課題もあります。そこでご検討いただきたいのが、談らんのクックチル真空調理サービスです。
談らんでは、ソフト食・ミキサー食・ゼリー食と、さまざまな嚥下食に対応しております。主菜や副菜を基本として(主食を除く)、各施設の運用に合わせてオプションを選択いただくことで、お味噌汁や汁具、嚥下食をセットにすることが可能です。温めて盛り付けるだけでおいしく召しあがれます。
また、必ず数名で試食を行い、素材の味が一番いい状態で保存できるチルドを選択することで、安定した品質と味にこだわっているのが特徴です。
パウチの中で完成させる真空調理を採用しているため、衛生面でも安心してご利用いただけます。ご興味のある方は、ぜひお問い合わせください。
